乳がんの基礎知識

医学的・教育的な情報

乳がんの基礎知識

乳がんとは

乳がんは、乳房の組織に発生するがんです。女性の多くに見られるがんの一つですが、早期に見つけ、適切な治療を行うことで、良好な経過が期待できる場合も多いことがわかっています。

乳がんは主に、乳管(母乳を運ぶ管)と小葉(母乳を作る組織)から発生します。

がん細胞が乳管や小葉の中にとどまっている状態を「非浸潤がん」、周囲の組織に広がっている状態を「浸潤がん」と呼びます。

ひとこと

早期発見はとても大切です。定期健診や日頃のセルフチェックを習慣にすることが、安心につながります。

乳がんのリスクについて

乳がんのリスクには、次のような要因が知られています。

  • 年齢
  • 家族歴
  • 遺伝的要因(BRCA1/BRCA2など)
  • 女性ホルモンの長期間の影響
  • 生活習慣

ただし、これらのリスク要因がなくても乳がんになることはあります。そのため、すべての女性にとって、正しい知識を持ち、体の変化に目を向けることが大切です。

症状

乳がんの初期症状として最も多いのは、乳房のしこりです。

ただし、すべてのしこりが乳がんというわけではなく、良性の場合も多くあります。

乳がんで見られることのある主な症状には、次のようなものがあります。

  • 乳房のしこり(多くの場合、痛みはありません)
  • 乳房の皮膚の変化(くぼみ、赤み、オレンジの皮のような見た目など)
  • 乳頭の陥没や形の変化
  • 乳頭からの分泌物(特に血液を含む場合)
  • 乳房の大きさや形の変化
  • わきの下のしこり
ひとこと

気になる変化や症状に気づいた場合は、早めに医療機関を受診することが大切です。早期に確認することで、治療の選択肢が広がることがあります。

なお、初期の乳がんは自覚症状がないこともあります。そのため、症状がなくても、定期的な検診を受けることが重要です。

検査・診断

乳がんの診断では、いくつかの検査を組み合わせて状態を確認していきます。

一つの検査だけで判断するのではなく、情報を重ねて、より正確な診断を行います。

主な検査方法

  • マンモグラフィ: 乳房のX線検査です。小さなしこりや、微細な石灰化を見つけるのに役立ちます。
  • 超音波検査(エコー)しこりの性質(固いか、液体を含んでいるかなど)を調べるために有用です。
  • MRI検査より詳しい画像が必要な場合に行われる検査です。病変の広がりを確認する目的で使われることがあります。
  • 生検(バイオプシー)気になる部分の組織を少量採取し、顕微鏡で調べる検査です。乳がんかどうかを確定するために必要な検査です。
ひとこと

生検は、正確な診断を行うために重要な検査です。結果を待つ時間は不安を感じることもありますが、正しい診断が、その後の適切な治療につながります。

診断が確定した後は、がんの広がりや状態を確認するために、追加の検査が行われることがあります。これには、CT検査、骨シンチグラフィ、PET検査などが

がんの種類

乳がんにはいくつかの種類があり、がんがどこから始まったかや性質によって分類されます。

種類によって、治療の考え方や選択肢が異なります。

主な乳がんの種類(発症部位による分類)

  • 浸潤性乳管がん最も多いタイプの乳がんです。乳管(母乳を運ぶ管)から始まり、周囲の組織へ広がります。
  • 浸潤性小葉がん小葉(母乳を作る組織)から始まるがんです。浸潤性乳管がんに次いで多く見られます。
  • 非浸潤性乳管がん(DCIS)がん細胞が乳管の中にとどまっている、早期の段階の乳がんです。
  • 炎症性乳がん比較的まれなタイプで、乳房の皮膚が赤く腫れるなどの症状が特徴です。進行が速いタイプであるため、早めの受診が重要です。

乳がんのサブタイプ(性質による分類)

乳がんは、がん細胞が持つ受容体の有無によっても分類されます。

この分類は、治療方針を決める上で重要です。

  • ホルモン受容体陽性エストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンの影響を受けて増幅するタイプです。
  • HER2陽性HER2というたんぱく質が多く発現しているタイプの乳がんです。
  • トリプルネガティブホルモン受容体もHER2も陰性のタイプです。
ひとこと

乳がんのタイプやサブタイプによって、適した治療法は異なります。担当医と相談しながら、自分の状況に合った治療計画を考えていきましょう。

治療法

乳がんの治療は、がんの種類や進行度(ステージ)、そして患者さん一人ひとりの体の状態に合わせて選ばれます。多くの場合、複数の治療法を組み合わせて行われます。

主な治療法

  • 手術がんを取り除くための治療です。
    • 乳房温存手術(部分切除):がんとその周辺組織を切除します
    • 乳房切除術:乳房全体を切除します
    • センチネルリンパ節生検:わきの下のリンパ節への転移を確認するために行われる検査です。必要に応じて手術と同時に行われます。
  • 放射線療法高エネルギーのX線を使って、がん細胞を破壊する治療です。手術後に残っている癌細胞を減らす目的で行われる場合が多いです。
  • 化学療法(抗がん剤療法)薬を使ってがん細胞の増殖を抑えたり、破壊したりする治療です。手術の前にがんを小さくするため、または手術後の再発予防として行われます。
  • ホルモン療法ホルモン受容体陽性の乳がんに対して行われます。がん細胞の成長を助けるホルモンの動きを抑える治療です。
  • 分子標的療法がん細胞が持つ特定の分子を標的にした治療です。たとえば、HER2陽性乳がんに対して使われるトラスツズマブなどが、この治療に当てはまります。
  • 免疫療法体の免疫の働きを利用して、がんと闘う治療です。一部のトリプルネガティブ乳がんなどで用いられることがあります。
ひとこと

治療には、副作用が伴うこともあります。医療チームと密に連携しながら、副作用への対処法や日常生活におけるサポートについても相談していきましょう。

治療計画は、がんの状態や体調、生活の状況などを踏まえて、個別に検討されます。必要に応じてセカンドオピニオンを求めることも、納得のいく選択をするための一つの方法です。

進行がん

進行乳がん(ステージIVまたは転移性乳がん)とは、がんが乳房だけでなく、骨、肺、肝臓、脳などの他の臓器に広がっている状態を指します。

進行がんの治療は、がんを完全に取り除くことだけを目的とするのではなく、がんの進行を抑え、症状をコントロールしながら、生活の質をできるだけ保つことを大切にします。

進行がんの治療オプション

進行乳がんでは、症状や体の状態に応じて、次のような治療が組み合わされます。

  • 全身療法化学療法、ホルモン療法、分子標的療法、免疫療法などを用いて、がんの進行を抑えます。
  • 放射線療法痛みの緩和や、転移した部位の症状を和らげる目的で行われることがあります。
  • 手術特定の症状を軽減するために、必要に応じて行われることがあります。
  • 緩和ケア痛みや不安などの症状を和らげ、生活の質を高めることを目的としたケアです。治療の早い段階から併用されることもあります。
ひとこと

進行がんと診断されても、選択できる治療やサポートはたくさんあります。医療チームや家族、サポートグループと話し合いながら、自分にとって大切なことを軸に、これからの過ごし方を考えていくことができます。

医学の進歩により、進行乳がんの治療は年々改善されています。現在では、治療を続けながら、長い期間にわたって生活の質を保っている方も多くいます。

また、臨床試験への参加が、新しい治療にアクセスする一つの選択肢となる場合があります。主治医と相談しながら、自分に合った可能性を検討することができます。

さらに、緩和ケアは進行乳がんのあらゆる段階で大切な役割を果たします。痛みや不快な症状の管理に加え、心理的・精神的なサポートを通じて、日々の生活をより穏やかに過ごすための支えとなります。